婚姻費用とは何か?離婚弁護士が解説
1 婚姻費用とは
夫婦が婚姻生活を維持するために必要な費用のことをいいます。夫婦はそれぞれの収入や役割に応じて、婚姻費用を分担する義務があります。具体的には、年収の高い方から低い方へ生活費の支払いをするということになります。
婚姻費用は、離婚が成立するまで発生します。多くの場合、別居後の生活費を支払ってもらうために別居時に婚姻費用を請求することが多いです。ただ、同居中でも適正な生活費が払われていない場合は、請求可能です。
離婚すると婚姻費用分担義務はなくなります。イメージとしては、お子さんがいるご夫婦の場合、離婚までは、婚姻費用≒「配偶者と子どもの生活費」を負担し、離婚後は養育費≒「子どもの生活費」を負担すると考えておけばよいでしょう。
2 婚姻費用の決定方法
婚姻費用の額を決める方法として、令和元年に発表された改定標準算定方式という計算式により算出する方法がありますが、多少複雑な計算式なので、改定標準算定方式の考え方を表に反映した改定算定表(以下「算定表」といいます。)を基に決めることが多いです。
算定表は、お子さんの人数、年齢(0歳~14歳以下または15歳以上)、夫婦双方の収入を当てはめることで、婚姻費用の相当額がわかります。
では、実際に婚姻費用の相当額をシミュレーションしてみましょう。
※婚姻費用シミュレーションはこちら
ただ、ご夫婦の状況はさまざまですので、事情によって算定表の金額から修正ができことが多々あります。
算定表上の金額は一定の基準となるため軽視することはできないですが、必ずその金額になるとも限りません。
以下にも記載しますが、年収がいくらなのかも判断が難しいこともあります。安易に自己判断せず、詳しい弁護士に相談することをおすすめします。
3 年収の考え方
婚姻費用を決める上で双方の年収は重要な要素ですが、そもそも年収額がいくらかで争いが生じることが多々あります。
会社員や公務員の方で副業がない場合は、基本的には源泉徴収票や課税証明書の数値が年収とされます。
年収に関する争いでよくあるのは、以下のような場合です。
①個人事業主で確定申告上の数値が実際の収入、支出と差がある。
→基本的には確定申告の数値が年収とされる。しかし、実際の収入、支出を裏付けるような資料を提出すれば、年収が修正されることがある。
②就労に支障がないのに就労しておらず無収入である。
→潜在的稼働能力が認められ、一定程度の年収があると仮定されることが多い。
③毎年の年収に波がある。
→過去3年程度の年収の平均をとられることが多い。
④転職しており前年度までの年収と今年度の年収に差がある。
→今年度の給与明細などを前提に今年度の年収を推計することが多い。
⑤休職中で傷病手当金を受給している。
→年収として扱われる。仕事上の経費(職業費)がかかっていないため、職業費分を上乗せした金額を婚姻費用算定の基礎となる年収とする。
⑥育休中で育児休業給付金を受給している。
→年収として扱われる。仕事上の経費(職業費)がかかっていないため、職業費分を上乗せした金額を婚姻費用算定の基礎となる年収とする。
⑦年金生活である。
→年収として扱われる。仕事上の経費(職業費)がかかっていないため、職業費分を上乗せした金額を婚姻費用算定の基礎となる年収とする。
⑧複数の収入源がある。
→合算する。合算方法は収入源によって異なるため、単純な合算とならないことが多い。
4 婚姻費用の増額・減額
算定表から算出される額は、お子さんの人数、年齢、夫婦の収入のみから出されるため、個別の事情によって、婚姻費用の額が増額、減額できることがあります。
以下、よくある増額、減額の事由を紹介します。
① 私立学校の学費等
算定表の婚姻費用には、公立の学費は含まれていますが、私立学校の学費までは含まれていません。
婚姻費用を支払う側が、私立学校への進学を容認していたような場合には増額が認められます。明示的に同意していなくても、同居中から私立学校に通学していた、私立学校の受験塾に行っていた、婚姻費用を支払う側の口座から受験塾や私立学校の費用が引き落とされていたといったような事情や、夫婦の学歴、収入等から、私立学校に通うことがおかしいこととは考えられない場合にも、増額が認められることがあります。
増額が認められる場合は、公立学校の教育費分を超える部分について、折半とされることが多くなっています(2023.9現在 千葉家庭裁判所の実務)。
年収の按分の割合で負担するという審判例も複数出ていましたが、令和5年に仙台高等裁判所、東京高等裁判所で折半とする判断が出されたことが家裁実務に影響を与えています。
ただ、最高裁の判断が出ているわけではなく、ご夫婦によって事情も違うため、弁護士に相談の上、見通しを立てるとよいでしょう。
② 塾、習い事等の費用
塾や習い事は、お子さんの教育に必須とまではいえないので、原則として、増額は認められません。
しかし、同居中から塾や習い事をやっていた、義務者が承諾しているなど、義務者の同意があると考えられる場合には、婚姻費用への増額が認められる場合があります。
③ 住宅ローンの負担
義務者が、婚姻費用を受け取る権利のある人(以下「権利者」といいいます。)が居住する不動産の住宅ローンを負担する場合、義務者が権利者の住居の費用を負担している状況といえます。
そのため、そのような場合、義務者が負担する住宅ローンを考慮し、婚姻費用を考える必要があります。
権利者にどの程度の収入があるかによって、婚姻費用から控除する額が変わります。
考え方はいくつかあるのですが、権利者に一定程度収入がある場合、義務者が住宅ローンを負担することで、権利者の収入に応じた住居関係費を義務者が権利者に代わって負担していると考え、算定表の婚姻費用から住居関係費相当額を控除するという考え方が一般的です。
5 婚姻費用の請求が認められないケース
別居や婚姻関係の破綻について、もっぱらまたは主として責任がある配偶者、いわゆる有責配偶者からの婚姻費用の請求は、子どもがいる場合には養育費部分に限って認められ、有責配偶者の生活費に関わる部分の請求は認めないと判断した裁判例があります。
「もっぱらまたは主として責任がある」というのは、たとえば、不貞をした配偶者が自ら別居し、自宅に残っている相手に婚姻費用を請求するようなケースです。このようなケースでは、不貞をした配偶者の生活費部分は請求が認められず、お子さんの部分に限って請求が認められます。
無断で自宅を出た、突然出ていった、同居に応じない、というだけでは、「もっぱらまたは主として別居や婚姻関係の破綻の責任がある」とはいえません。そのため、別居していることだけを理由に、婚姻費用の請求を退けることはできません。
6 婚姻費用を請求する方法
婚姻費用は、明確に書面などで請求することが重要です。
家庭裁判所に婚姻費用分担調停を申し立てるのが一般的な方法ですが、すぐに申し立てられない場合は、内容証明郵便で請求しておくことをおすすめします。
調停の申立て以前に、内容証明郵便や弁護士に依頼して弁護士から書面で請求していた場合などは、遡ってその書面を受け取ったときから婚姻費用の請求が認められることが多いです。
調停の申立て以前に書面などで明確に請求の意思表示をしていない場合は、調停の申立て時から婚姻費用の支払いが命じられることになります。
婚姻費用の調停は、調停で合意ができない場合は、調停は不成立となりますが、自動的に審判手続きに移行します。
審判手続きに移行すると、裁判官が双方から聴いた事情や提出された資料等を考慮して、審判という裁判所の判断を出します。したがって、婚姻費用は必ず決まることになります。
7 義務者が婚姻費用を支払わない場合
調停で合意したり、審判で婚姻費用の支払いが命じられたにもかかわらず、義務者が婚姻費用を支払わない場合もあります。
その場合、まずは調停や審判を行った家庭裁判所に、履行勧告を申し出ましょう。家庭裁判所は、義務者に対して、婚姻費用を支払うように勧告を行います。
しかし、この履行勧告には、婚姻費用の支払いを事実上促すだけの効果しか無く、義務者が履行しないときはそこで終わってしまいます。
そのような場合には、一般的には義務者の給与債権を差し押さえて、義務者の給与から婚姻費用を回収することが多いです。具体的には、義務者の住所地を管轄する地方裁判所に債権差押命令の申し立てを行います。
未払いの婚姻費用がたまっている場合は、預貯金、保険、株・投資信託などを差し押さえることもあります。申立ての詳細については弁護士にご相談ください。
弁護士に離婚問題を依頼するメリット
弁護士に離婚問題を依頼すると、
以下のような法的なメリットがあります。
相手が離婚に応じない場合は、最終的に裁判での解決を見据えて行動する必要がでてきます。困難な状況ではありますが、以下のメリットを享受し、できるだけ早期に離婚できるよう一緒にがんばっていきましょう。
- 妥当な条件や見通しを知ることができる。
- 協議離婚、調停離婚、裁判離婚の手続きを任せられる。
- 書面を作ってもらえる。
- 提出する証拠を選んでもらえる。
- いつでも法的な質問ができ、疑問を解消できる。
- 類似ケースの解決策を聞くことができる。
- 裁判所に対等に意見できる。
法的なメリット以外にも、以下のようなメリットがあります。
- 代わりに相手と交渉してもらえる。精神的な負担が軽くなる。
- 感情的に乱されず、冷静に判断できる。
- 相手が無視したり、はぐらかしたりしにくくなる。
- (裁判の場合)裁判所に行かなくていいため、仕事に支障が出ない。
- (調停の場合)調停委員に言いにくいことも代わりに言ってもらえる。
- 交渉や調停のその場で、有利不利、妥当、妥当でないという判断が即決でできる。
- できるだけのことをやったと後悔が残りにくい。
- 力強い味方ができ、1人で戦わなくていい。
弁護士への依頼を決めた際は、弁護士の中でも、特に”離婚を多数扱っている弁護士”に依頼しましょう。
弁護士が取り扱う分野は多岐にわたります。
病院をイメージしていただくと分かりやすいですが、おなかが痛いときには内科、目の調子が悪いときは眼科、鼻水が止まらないときには耳鼻科を受診されると思います。
弁護士も同様に、それぞれに得意な分野があります。離婚案件が多いほど、これまでの経験から裁判で離婚が認められる見込みの予測も立てやすいです。また、離婚を拒否している相手との交渉にも長けていると言えます。
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離婚問題に直面することは、将来に対する不安や悩みを伴いますが、弁護士法人とびら法律事務所では、これまで累計6,000件以上の離婚相談を受け、慰謝料問題、親権・養育費問題、財産分与等幅広いケースに対応してきた経験豊富な弁護士が、あなたに寄り添い、解決策を提供いたします。
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また、実際にご相談いただいた方からは、以下のような声を頂戴しております。
「先生にお願いしなければ,まだまだ離婚できずに苦しんでいたと思います」
「どんなことでも親身になって聞いてくださり,すぐに対応してくれたので助かりました」
(お客さまの声)
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