預貯金の財産分与
預貯金の財産分与における問題点
結婚後から夫婦で増やした預貯金は離婚時には財産分与の対象となります。例えば、通常貯金、定額・定期貯金、普通預金、定期預金等です。
預貯金の場合、①いつの時点の残高を基準にするか、②どの預貯金を財産分与の対象とするかがよく問題になります。
いつの時点の残高を基準にするか
基本的には、別居した場合、別居した日時点の預貯金残高を財産分与の対象とします。
財産分与は経済的な協力関係がなくなった時点の財産を分けるので、別居後も経済的な協力関係が継続している場合(別居後も同居中と同様の家計管理が続いている)は別居した時点ではなく、別居後の経済的な協力関係がなくなった時点の預貯金残高が財産分与の対象となります。逆に、同居中でも、家計を分けるなどと夫婦間で明確に合意し、実際にお金の流れを分けているようであれば、お金の流れを分けた時点を基準とすることもあります。
また、調停を申し立てた日を基準とすることもよくあります。
別居前に多額のお金を預貯金からおろして夫婦の一方が保有している場合は、額及び別居に近接した日時かによって、別居日時点の財産に加えて財産分与をすることもあります。
どの預貯金を対象とするか
子ども名義の預貯金
子ども名義の預貯金であったとしても、例えば、子どもの将来の学費のために夫婦の収入の一部を毎月数万円ずつ貯蓄していたような場合は、夫婦の収入によって形成された財産ですので、夫婦共有財産とみられ、財産分与の対象になります。一方、子ども自身に贈与された財産は子ども自身の財産であり、夫婦共有財産ではなく財産分与の対象にはなりません。たとえば、よくあるのは祖父母から孫への贈与金です。
結婚前に貯めた預貯金
結婚前の預貯金が別居日の段階で、結婚前に貯めたことがわかる形で残っていた場合は、夫婦共有財産ではなく、その人個人の特有財産であり財産分与の対象にはなりません。
親から贈与されたお金が入っている預貯金
親から贈与されたお金については、特有財産として財産分与の対象にならないことが多いです。ただ、状況により夫婦2人に贈与したと評価される場合もあります。
結婚前に勤務していた会社からの退職金が入っている預貯金
勤務期間が結婚後にないのであれば、退職金は結婚前の労働の対価なので、基本的には財産分与の対象になりません。
へそくり
他方の配偶者に内緒にして隠している預貯金、いわゆる「へそくり」であっても、そのへそくりが夫婦の収入の一部から貯蓄していた場合には、財産分与の対象になります。
預貯金を調べる方法
①任意開示
まずは通帳の開示をもとめましょう。互いに弁護士をつけた協議をすると、預貯金通帳の履歴の開示もスムーズに進むことが多いです。協議の段階で開示を拒んだとしても、調停になれば裁判所から開示を求められるため、ほとんどの方が開示をします。
②取引履歴からの調査
既に把握している口座の入出金履歴を確認することで、他の口座からの入金、他の口座への出金記録を発見することがよくあります。
わかりやすく別の金融機関口座への振込みの記載があり判明する場合もあれば、確実に支払っているものの履歴がないことで、別口座の存在が推認されることがあります。たとえば、家賃、住宅ローン、水道光熱費、携帯料金、クレジットカード、幼稚園・保育所・学校関係費、習い事の費用の引落しがない、給与や行政からの手当の入金の記録がない場合は、他に口座が存在している可能性が高いです。
ネット系バンクを利用している人も多いため、通帳がないことも多いので注意が必要です。
③給与明細からの調査
給与の振込先口座を複数の口座に分けている方もいます。その場合、給与明細を見ることで、給与がどの口座に振り込まれているか確認することができます。源泉徴収票や確定申告書だけの開示で、給与明細が見られない場合は、金融機関の取引履歴から、給与と賞与の入金額に社会保険料などを概算で加えた額を推計し、年収と齟齬がないかチェックします。
④調査嘱託の申立て
上記のような調査をしても相手方が開示をしない場合は、調停、訴訟の場合、「調査嘱託の申立て」を行います。調査嘱託とは、裁判所が金融機関や企業に対して調査を行うことです。調査嘱託の申立てをすれば、相手方を介さず、直接金融機関や会社が情報を開示してくれます。ただし、調査嘱託の申立てには、一定程度財産の特定は必要になります。
まとめ
預貯金の財産分与は、離婚を進めるうえで最もトラブルになりやすい争点の1つです。
特に以下の点に注意する必要があります。
・財産分与は原則として2分の1ずつ。
・別居時の預貯金残高が財産分与の対象となることが多い。別居直前に多額のお金を引き出した場合は別居時の残高に引き出した金額を加えられることがある。
・経済的協力関係がなくなった時点≒財産分与の基準時
・子ども名義の預貯金やへそくりであっても、その実質が夫婦共有財産の場合には財産分与の対象になる。
・結婚前の預貯金が財産分与の対象になるかはお金の管理方法、使用実態による。
・預貯金の調査方法としては、任意開示、取引履歴や給与明細からの調査、裁判所による調査嘱託等の方法がある。