離婚における退職金の財産分与
財産分与とは
財産分与とは、夫婦が離婚に際し、婚姻中に夫婦で築いた財産を分けることです。「婚姻中に夫婦で築いた」ことが前提になるので、独身時代にそれぞれが蓄えた財産や親族からもらった財産などは財産分与の対象にはなりません。
離婚に向けて別居をお考えの方へ
また、夫婦で築いた財産というのは、互いの年収に関わりません。ご夫婦で年収差がある場合でも、基本的には2人で築いた財産とみなされ、離婚時に分けることになります。
財産分与の基準時
財産は時間の経過とともに増減するので、財産分与は、いつの時点の財産をベースに分けるのかが大事になります。その財産の基準となる時点のことを、財産分与の基準時といいます。
財産分与の基準時は、夫婦の経済的な協力関係がなくなった時点にすることが多いです。経済的な協力関係がなくなると、夫婦で協力して財産を築いたと言えなくなるからです。
経済的な協力関係がなくなった時点とは、わかりやすいのは、別居です。夫婦が不和になり、別居した場合には、別居を財産分与の基準時とすることが多いです。
別居と言っても単身赴任の場合は、経済的な協力関係はあるため、別居日(単身赴任開始時)を財産分与の基準時とはみなしません。ただ、単身赴任中に、夫婦が不和になり、離婚請求をし、家計を分けたような場合は、離婚請求をして家計を分けた時点を基準時と考えられます。
また、別居しても、経済的な協力関係が続いている場合もあります。たとえば、一方が家族全体の家計管理を継続しているような場合です。このような場合には、別居していても、財産分与の基準時が別居時より後になることがあります。
大事なのは、夫婦の経済的な協力関係がどこの時点でなくなったのかということで、事案によって、財産分与の基準時は異なることになります。
退職金は財産分与の対象に含まれるのか
退職金の受給可能性が高い場合は、財産分与の対象に含まれます。具体的には、安定した仕事に就いている場合、退職金の支給時期まで10年未満などの場合がよくある例です。この例に当てはまらない場合でも会社規模、退職金支給実績、勤務状況、退職金規程の有無などで退職金が財産分与の対象になることはよくあります。
退職金の支払時期別の財産分与方法
財産分与の基準時前に退職金が支払われている場合
通常は、給与振込口座に退職金が振り込まれますので、退職金そのものの金額ではなく、他の預貯金とも合わせ、財産分与の基準時時点の給与振込口座の預貯金残高をみて、財産分与を検討します。
退職金の振込先口座を指定できる会社も多くあるため、給与口座とは別口座を指定し、振り込まれている可能性もあります。
同居中に退職金を生活費として使った場合は、退職金だけを取り出して財産分与を求めるということはできません。他の財産も含め残っている預貯金残高で財産分与を計算していきます。生活費への組み入れの程度によっては、預貯金残高から、退職金のうち独身時代の労働の対価に相当する額を控除することが可能な場合もあります。
別居後に退職金が支払われた場合
実際に支払われた退職金額×(同居期間÷全労働期間)という計算式で、退職金のうち同居期間に相当する部分を計算することが多いです。
将来退職金が支払われる場合
勤務先の倒産、解雇、減給等が考えられ、将来退職金が支給されない可能性がある場合には、退職金が財産分与の対象に含まれるのか争いになるケースもあります。会社の規模、退職金の支給実績、退職金規程、勤務状況などによって退職金の支給可能性を判断していきます。
退職金が財産分与の対象になる場合、別居時に自己都合退職していた場合の退職金額を勤務先に試算してもらい、退職金試算額×(同居期間÷基準時までの在職期間)という計算式で、退職金のうち同居期間に対応する部分を計算することが多いです。
退職時期が近い場合などは定年退職を前提に計算することもあります。
将来支給される退職金をどう支払ってもらうか
財産分与は、離婚にあたって夫婦が形成してきた財産を清算する制度なので、離婚時(財産分与時)に、将来支給される退職金部分も合わせて支払うことが一般的です。
しかし、例外的に、財産分与の対象となる財産が退職金しかないような場合には、退職金の支給時点での支払いを命じる裁判例もあります。
調停など話し合いで解決する際には、離婚時に退職金も含めた一括払いが難しい場合は、分割払いや退職時の支払いなど、支払能力や回収可能性を考慮した支払方法を検討していくこともよくあります。
まとめ
退職金の財産分与は離婚を進めるうえで最もトラブルになりやすい争点の1つです。
特に以下の点に注意する必要があります。
・退職金は財産分与の対象になることが多い。
・婚姻前から働いていた場合には、退職金のうち同居期間に対応する部分が財産分与の対象になる。
・原則として、将来支給される退職金を考慮した上で、離婚時に支払う。
・離婚時に支払能力がない場合は、現実的な支払方法で和解できることもある